山樹東吉は内外商事の総務次長だ。長女の京子、次女の夏子、三女の晴子はすでに嫁いで、現在は妻の信代と末娘の恵子との三人暮しの毎日だ。その恵子も、東吉の同窓鈴鹿剛平の息子三郎と婚約して、やがて巣立とうとしている。或る夜、山樹は同窓会の席上、ガンで療養中の秋山にその病名を知らせる可きか否かで鈴鹿と口論となり、ついに恵子、三郎の縁組もあぶなくなった。だが若い二人の心は、幸せでふくらんでいた。こんな山樹に、小さな事件が訪れた。東吉の世話で、内外商事に入社した弟の康介が、会社の公金を百万使い込んだのだ。後始末を頼まれた東吉は、三十年かけて築きあげた地位を守らんため、預金七十万を康介に手渡した。そして残りの三十万を証券会社から受け取ったまま、山樹は謎の失踪をした。急拠集まった娘夫婦や、康介は、今はやりの人間蒸発ではないかと、各人各様な推理を働かせては、信代を不安に...
社会と家庭からの解放を求めてルンペンの群落に入った五百助というサラリーマンあがりの四十男が、初めて接した別な社会や人間にふれ、そこに真実の生き方を見出してゆく。
奈良の大学の数学教授である尾関は、こと数学にかけては世界的な学者だが、数学以外のことは全く無関心で、とかく奇行奇癖が多く世間では変人で通っている。妻の節子はこんな尾関につれ添って三十年。コボしながらも彼を尊敬し貧乏世帯をやりくりしてきたのである。娘の登紀子は市役所に勤めていて、同じ職場の佐竹竜二と縁談がある。二人は好きあっているし節子もこの縁談を喜んでいる。ただ竜二の家は飛鳥堂という墨屋の老舗で、竜二の姉美津子はお徳婆さまに気に入るように色々と格式にこだわるのだ。それに登紀子は両親の顔をおぼえぬ戦災孤児で、尾関に拾われ今日まで実の娘と同様に育てられてきたのだった。しかし登紀子はそんなことを気にしているのではない。彼女はむしろ父のそばを離れるのが忍びないのである。それと同時に竜二が父の気に入るかどうか、これも気がかりであった。竜二は尾関がしばしば近所の...
日本鋼材の会計課長渥美耕三は十年前に妻を亡くし、一人息子の史郎との二人暮し。二人とも大変な大酒のみである。耕三は近所に住む長谷川きみが、夫の清の酒のことで相談にくると、「酒は静かにのむべきだ」と説教するが、彼自身はのむとがらりと人が変ってしまう。先日も、のみ友達であるトップ屋くずれの小池と二人で泥酔、酔っぱらい保護センターに保護される仕末だ。ある日、史郎は突然結婚すると言い出した。相手は看護婦をしている桜井規子だと言う。史郎はどうしても結婚したいため赤ん坊ができていると嘘まで言った。その一言に耕三は渋々、規子に会った。喜んだ史郎は友人の森山とのみ歩いた。森山はバー、ベンハーの女給節子に惚れていた。然し、節子はたまたまのみに来ていた東京ファイターズのエース片岡の側を離れない。面白くない森山は、些細なことから片岡と喧嘩を始めた。とめに入った史郎は、片岡の...